今回は、アセッサー養成講座の「能力評価編」第4回となります。
前回までの内容をいったん整理したうえで、能力評価に関するよくある質問について解説していきたいと思います。
能力評価について整理します
ここ数回、「能力の評価」のテーマに入ってから、同じようなことを繰り返して話を先に進んでいないと感じるかもしれません。事実そうなのですが‥。「能力の評価」とは、とても曖昧かつ複雑なものであり、誤解されやすいものです。いろいろなやり方があり、いろいろな表現方法があり、いろいろな捉え方があります。そのため、「自分がやっている能力評価はこうだ」と読み手に皆さんに正しく伝えることがとても難しいと思っており、前提となる部分で行ったり来たりしています。繰り返しになると思いますが、私の考えを整理します。
- 能力は目に見えないし、内面に保有するものなので、「測る」というよりも「診断(推定判断)する」ものである。
- 評価対象となる能力は、専門能力でなく、汎用能力(職種共通:マネジメントを行ううえでの能力)である。
- 厳密にいえば、ヒューマンアセスメントでは「マネジメント能力」のほか、同時に観察できる「価値観/動機特性」「思考スタイル/行動スタイル」も評価している。ただし、それらは「定量評価」をせず、所見として報告する。
「マネジメント能力」は高い方がよいが、「価値観/動機特性」「思考スタイル/行動スタイル」は様々なものがあってよい。むしろ、組織では多様性を確保する必要がある。
私が考えるベストな能力体系
大分類 | 中分類 | 個別能力 |
---|---|---|
実践的な能力 即戦力性 | 思考系能力 | ビジョン構想力:数年先の理想形を描く力 |
問題解決力:不具合な状態を改善する力 | ||
組織運営力:指示・命令・統率で組織を動かす力 | ||
対人系能力 | 方向づける力:集団を良い方向へと導く力 | |
活性させる力:集団の結束力を高めていく力 | ||
人材育成力:個性を引き出し、人を伸ばす力 | ||
基礎的な能力 将来可能性 | 思考系能力 | 理解力/認識力:情報を理解・解釈して状況を掴む力 |
論理的思考力:論理的思考を進めて妥当解を導く力 | ||
創造的思考力:創造的思考を進めて新価値を創る力 | ||
意思決定力:流動下でキッパリと決め切る力 | ||
対人系能力 | 感受性/対人理解力:人の真意や感情を察知する力 | |
寛容性/多様性活用力:異なる価値観や見解から学ぶ力 | ||
発信力/表現力:自分の思いを効果的に伝える力 | ||
社交性/関係構築力:初対面の人と関係を構築する力 | ||
姿勢 | 推進性 | 挑戦性/果敢性:リスクを恐れず、前に出ていく姿勢 |
主体性/主導性:自分の座標軸で物事を進める姿勢 | ||
不屈性/執着性:困難に怯まず、努力を継続する姿勢 | ||
信頼性 | 自律性/誠実性:高い倫理観のもと公正に進める姿勢 | |
自制心/忍耐性:我慢する姿勢、自分を抑える姿勢 | ||
自己責任性:常に真剣、結果の責任を取る姿勢 |
能力評価に関する様々な質問
スキル、スタイル、マインドの整理
能力評価に必要なものは?
- 能力の定義
- 能力の評価基準
- 能力を判定するための環境(演習)
- 評価者(アセッサー養成)
- 評価結果のフィードバック方法
「能力が高い」とはどんな状態を言うのか?
- 能力を使って高い成果をあげられている:技術面
- 出来不出来の差が小さく、安定して成果を上げている:安定性
- 厳しい環境に遭遇しても、安定して成果を上げている:環境対応性
我々は、「成果の効果性」「成果の安定性」「能力を発揮する頻度」が高い状態を「能力が高い」といっています。別の言い方をすると、
- 演習ができた、素晴らしい:「スキル」が十分ある
- どの演習でもできていた、発揮していた:「スタイル」として身についている
- 動機や価値観と合致している:「マインド」との親和性が高い
という状態が観察できれば、相当高い評価となります。
係長、課長、部長で、評価する能力要件は異なるのか?
役割が異なれば、求められる行動や能力も異なります。しかし、一人ひとりの受講者の経年変化を見たり、次の職位で必要な能力を見せたりすることを重視し、通常は職位が異なっても「同じディメンション(能力要件)」で実施する場合が多いです。
例えば、前項で「実践的能力」「基礎的な能力」「姿勢」で20の能力要件を示しましたが、これをすべて評価し、階層ごとに特に必要な能力を重みづけて評価する方法を取っています。
大雑把な考え方ですが、階層が上がれば「実践的能力」「道を切り開くリーダーシップ能力」の比重が高まり、階層が低ければ「基礎的な能力」の比重が高まります。
係長 | 課長 | 部長 | |
---|---|---|---|
ビジョン構想力 | △ | 〇 | ◎ |
問題解決力 | 〇 | ◎ | ◎ |
組織運営力 | 〇 | ◎ | ◎ |
方向づける力 | △ | 〇 | ◎ |
活性させる力 | 〇 | ◎ | ◎ |
人材育成力 | 〇 | ◎ | ◎ |
理解力/認識力 | ◎ | 〇 | 〇 |
論理的思考力 | ◎ | ◎ | 〇 |
創造的思考力 | ◎ | ◎ | 〇 |
意思決定力 | △ | 〇 | ◎ |
感受性/対人理解力 | ◎ | ◎ | 〇 |
寛容性/多様性活用力 | ◎ | ◎ | 〇 |
発信力/表現力 | 〇 | ◎ | ◎ |
社交性/関係構築力 | 〇 | 〇 | 〇 |
挑戦性/果敢性 | 〇 | 〇 | ◎ |
主体性/主導性 | 〇 | 〇 | ◎ |
不屈性/執着性 | ◎ | ◎ | 〇 |
自律性/誠実性 | ◎ | ◎ | 〇 |
自制心/忍耐性 | 〇 | ◎ | ◎ |
自己責任性 | △ | ◎ | ◎ |
係長、課長、部長で評価する演習課題は異なるのか?
ヒューマンアセスメントは、状況(S)を与え、そこでの行動意図(T)、行動(A)、成果(R)を観察・評価します。したがって、階層ごとに演習課題を変えて実施します。部長は係長の遭遇する状況で能力を発揮出来ても、実践では通用しません。
- 部長がよく直面する状況:大組織の責任者、道を切り開く意思決定が求められる
- 課長がよく直面する状況:中組織の責任者、業務を改革する意思決定が求められる
- 係長がよく直面する状況:小組織の責任者、ミスのない安定した意思決定が求められる
能力の評価基準とはどんなものか?
「ビジョン構想力」「問題解決力」を例にとって話します。まず、各々の能力を4つ程度の要素に分解し、その要素ごとに評価します。さらに、その能力を発揮するための「有効なスタイル」「有効なマインド」を抽出します。
それぞれの項目から評価し、最終的なジャッジを下します。ただし、一つの演習、一つの行動から直接評価するのでなく、すべての演習行動を集約・統合し、プロファイルしてから評価基準に則って評価します。
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
---|---|---|---|---|---|
要素1 理想や志を打ち出す | |||||
要素2 将来環境を展望している | |||||
要素3 社会の仕組みを考える | |||||
要素4 ゴールを描写できている | |||||
スタイル 右脳型思考 | |||||
マインド 理想主義 未知への挑戦 |
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
---|---|---|---|---|---|
要素1 高所から問題を俯瞰する | |||||
要素2 問題の構造を解明する | |||||
要素3 解決策を多面的に考える | |||||
要素4 全体最適を考える | |||||
スタイル 左脳型思考 分析的思考 | |||||
マインド 本質志向 解決型 |
能力の評価プロセス
能力の評価で大切なことは、個別行動(思考)を評価するのでなく、行動(思考)特性を評価することです。そのため、以下のようなプロセスをたどります。
演習ごとの行動・思考特性⇒全体としての行動・思考特性⇒個別の行動・成果⇒能力評価
グループ討議 | 面談演習 | 意思決定演習 | 方針立案演習 |
---|---|---|---|
●常に関与、評論的 ●知識は豊富 ●解説的、コメント多い ●周囲の意見に絡む ▲活性化への意識弱い ▲主導する意識弱い | ●ストレートに言い放つ ●教示、助言のスタンス ●筋を通す ▲共感・配慮はしない ▲動機づけもできない ▲育成への意識はある | ●15ページの処理 ●自分の価値観明快 ●方針策定は視野広い ●指導育成のスタンス ▲論理・解決は弱い ▲合理的、割り切り | ●分析きっちり ●本質押さえる ●課題はシャープ ●着眼良、発想も広い ▲ゴールは曖昧 ▲電子書籍は触れず |
全体 | 資質面 | 思考面 | 対人面 |
---|---|---|---|
●超合理的、割り切り ●知識豊富、未知に強い ▲情実、共感、配慮、 謙虚さはない | ●ストレートに自分出す ●無駄はしない ●正直、気遣いなし ▲忍耐力はない | ●本質を見極める ●着眼が良い ▲熟考はしない ▲想像力は今一つ | ●自己主張 ●論破する ▲配慮なし ▲面倒見なし |
最終的な個別能力の評価に至るまでの過程は、
- 全体の特徴
価値観、動機特性、習慣化されている思考や行動のスタイルを把握 - クラスターごとの能力特性:マクロからのアプローチ
思考面、対人面、資質面に分けて特性・傾向を把握 - 個別行動:ミクロからのアプローチ
能力が最大限に発揮されたときの成果
能力が最大限に発揮されなかったときの成果
非常に困難な状況における成果の安定性
のようになります。
?、?のプロセスを踏み、本人が持っている能力を推定診断します。
ここが、結果だけを評価する試験とヒューマンアセスメントが異なるところです。
おわりに
今回は、前回までの内容をいったん整理したうえで、能力評価に関するよくある質問について解説を行いました。能力評価編はここまでとなります。次回より、能力評価後にどのようにして能力開発を行っていくのか、について解説を行っていく予定です。