今回は、アセッサー養成講座の「能力評価編」第1回となります。
能力評価編では、能力を評価することに関する手順や知識などについて、色々な角度から解説を行っていきます。

能力を評価するということ

そもそも能力は測定できるものなのか

能力とは「物事をやり遂げるための力」と言われます。経営学の立場からいうと、能力とは「組織行動における職務行動に影響を及ぼす個人特性としての諸要因」を言います。そのうち、マネジメント能力とは「マネジメントを効果的・効率的に遂行するために必要な能力」、リーダーシップ能力とは「職場でリーダーシップを効果的に発揮するために必要な能力」です。それらの多くは、業種・業態を問わず汎用的なものですが、会社の目指すビジョンや選択する戦略によって、社員に求められる能力要件は若干異なってきます。よりリーダーシップ能力が求められる企業もあれば、よりマネジメント能力が求められる企業もあります。能力の特徴は、

  1. 目に見えない
  2. 漠然として捉えにくい

ということが言え、測定しづらいものです。「能力は測れるものですか?」と問われたら、

  1. 正確に測るのは困難である
  2. 一定条件のもとで「水準」「傾向」を定量的に表現することは可能である

と答えます。能力を正確に測定しようとしても無意味です。能力測定は水準と傾向を表すことにとどめ、その背景・要因(なぜ能力が不足しているか、どうすれば能力が身につくか)を探るほうが大切です。

能力評価を行ううえでの留意点

われわれが能力を評価するうえで気を付けることは、「能力を測定するための適切な情報があるか(情報の信頼性)」と「その情報からどうやって正確に能力測定を行うか(測定の手続性・正確性)」という点です。能力評価は「その人が保有している能力を測定する」、いわゆる「目に見えないものを測定する」ため、また「測定結果はその人の職業人生上とても重要な情報となる」ため、安直には行うことはできません。本当の意味で保有する能力を評価するということは、次の点をチェックする必要があります。

  1. 被験者は、その能力を最大限に発揮しようとしているか
    能力を発揮しようと意識しているのか、本気を出そうとしているか?
    能力を発揮し得る十分な環境を与えているか?
  2. 被験者は、それを能力として身につけているか
    たまたまできたのか?もう一度再現できるか?
    能力として定着しているか?
  3. 評価者(アセッサー)は、言動や成果物の解釈を適正に行ったか
    評価者は、被験者の意図や意味を正確に読み取れたか?
    評価者は、自分の価値観で行動や成果物を解釈していないか?
  4. 能力を評価する手続きやルールが定まっているか
    能力の定義、能力を構成する要素などが明確になっているか?
    評価基準は定まっているか?
能力評価を行ううえでの留意点

結果の評価とプロセスの評価

以下の違いを明確に理解したうえで、能力の測定を行う必要があります。

  1. 結果の評価(成果の直接的評価):「その演習で直接発揮された行動や成果=その人の保有する能力」とみなして能力の測定を行います。入学試験や各種テストが該当します。
  2. プロセスの評価:結果の直接的な評価はせず、行動や成果に至るプロセスを追い、受講者の行動特性や思考特性を把握し、そのうえで「再現できる能力」を測定します。

能力評価は、行動や成果の再現性を測定するものです。行動の背後にある「能力の水準・傾向」を評価するものです。結果の評価のほうが簡単です。演習ごとに「この行動が出ればこの能力が3点」というように決めておけば、誰がやっても同じ評価にたどりつきます。ただし、そういった機械的(表層的)な能力測定であると、「正確な能力測定」と「具体的な自己啓発提言」に結びつきづらくなります。ヒューマンアセスメントは、あくまでも「プロセスの評価」であり、「演習結果の採点」ではないのです。

例1)正確な能力測定とは

グループ討議の際、「Aさんが周囲から攻められているB君を擁護した」という事実をもって、Aさんは「対人感受性を発揮した」と評価できるのかを判定するのは難しいものです。Aさんは、たまたま自分の意見と同じであったので擁護したのか、討議を早く進めたくて擁護したのか、Bさんを助けたくて擁護したのか、「行動の意図」を見極めないと正確な能力測定はできません。人間は、いちいち意図を宣言して行動するものではありません。表層的な行動だけから能力を測定することは困難です。

例2)具体的な自己啓発提言とは

受講者の行動特性や思考特性を把握できていないと、「問題解決力が不足するので問題解決力をつけてください」といった裏返しの提言になってしまいます。一方、プロセスを追うことが出来れば、「問題を捉える視点が低いため、問題の全貌を把握しきれておらず、局所部分だけの解決策となっています」「まずは事象を図式化して問題の全容を捉える訓練をしてください」というような助言が可能で、能力向上につながってきます。

能力と成果の因果関係

能力とは「物事をやり遂げるための力」であり、「これからの可能性を規定するもの」といえることができます。一方、成果は「能力発揮の結果として獲得したもの」と言えます。しかし、成果をあげられる人は「能力が高い」と言えるかとなると疑問が残ります。

「能力」と「成果」の間には様々な要因が介在します。したがって、両者の相関関係は弱くはありませんが、「成果をあげられる人」イコール「能力が高い人」とは言えません。あえて言うのでしたら、「成果をあげられる人」イコール「現職務で求められる能力が高い人」ということになります。名選手が必ずしも名監督にはならないように、現職で成果をあげている人でも、職種が変わったり、職位があがったりした場合の成果はわからないということになります。それを規定するのが「能力」であり、能力を測定するのが「ヒューマンアセスメント」ということになります。
能力は直接見ることができないので、受講者の発揮された成果や行動から論理的な推論を行って能力の水準や傾向を診断します。ヒューマンアセスメントでは「能力として定着しているのか、たまたまできたのか」「習慣化された行動か、意図的にやった行動なのか」を短時間で見極める必要があります。そのため、直接スコアに表れませんが、受講者の個人特性(動機の特性、思考様式、行動様式など)を把握することが重要となります。

能力と成果の因果関係

人事考課とヒューマンアセスメント

前述しましたが、人事考課は、職場行動や仕事上の成果を、長期的に観察して評価するものです。一方、ヒューマンアセスメントは、未知・未経験の分野(知識・経験が活用できない分野)での擬似マネジメント場面を設定し、「現在保有している能力・特性」を引き出し、行動や成果を観察・評価するものです。

日常の仕事上の成果は、「思考・対人能力」のほかに「経験知とか権限」というものも含まれています。能力が高まらなくても、経験や権限が増えれば、それに伴って成果も高まってきます。ベテラン社員が会社(業界)を変えた途端、実績があがらなくなったということも起こり得ます。「いままで何ができてきたか」で能力を判断する考え方(Proven Trade Record)は、この点に注意が必要でないかと思います。「能力にはチャンスを与え、成果には報酬を与える」というのが、人事施策の基本です。

次回に向けて

今回は、「結果」と「プロセス」の関係性や、「能力」と「成果」の関係性などについて解説を行いました。これまでの講座内でも所々で解説を行ってきましたが、ヒューマンアセスメントを行っていく上で、非常に重要な考え方になりますので、注意して取り組んでいただければと思います。

次回も引き続き能力評価に関する解説を行っていく予定です。