アセッサー養成講座の「インバスケット演習編」第3回となります。
今回は、インバスケット演習の中でも、企画力や構想力を測定する際に使用される「インバスケット方針立案演習」についての解説を行っていきます。
インバスケット方針立案演習
ヒューマンアセスメントでは、多くの場合、案件処理が終了した後、方針立案演習を実施しています。これは、案件処理を終了し、組織の実態や環境の動向を理解したうえで、3年程度を展望して「組織の新たな目標(ビジョン)」「挑戦課題」を60?90分程度で考えて報告書にまとめる演習です。未知・未来に向けて思考を進めていく「改革能力」「構想能力」が求められる演習です。
例えば、スーパーマーケットのケースであれば、ネットスーパーが台頭し、コンビニやドラッグストアも多くの食品を取り扱う中で、「良いものを安く提供する」というビジネスでは成長発展は難しくなっています。3年先を見通し、「どういったビジネスを作り上げていけばよいか」を考えて「3年後のゴール」「重点課題」を考えて報告書にまとめてください、というようなお題が出されます。
STARのフレームに入れると、以下のようになります。
S 状況 | 技術革新が進み、新たな業態、新たなサービスが台頭する中で |
T 意図 | 経営の変革を目指し |
A 行動 | 具体的に何を目指し、何をしていけばよいか、を考える |
R 結果 | (魅力があるか、実効性があるか) |
現状の受講者のレベル
受講者は「新価値創造」「将来構想」に慣れていません。ほとんどの受講者は、「新価値創造」「将来構想」に慣れていないため、普通にやると以下のような流れになります。
- 組織の問題を洗い出す
- 各々の問題の解決策を考える
- 業績目標を設定する
- 目標達成に有効な?の施策を抽出する
- 問題整理⇒目標設定⇒具体策の立案 という展開となる
多くの受講者は、目標や課題を与えられてから実行方法を考えます。また、手元の問題を一つひとつ潰しながら目標へと向かいます。施策を列記しがちであり、そこには「戦略性」「重点化」という意識はあまりありません。多くの受講者は、以下の質問に答えられません。
- 「価値を創造する」とはどういうことですか? 何のためにするのですか?
- 「将来を構想する」とはどういうことですか? 何のためにするのですか?
- 「ビジョンを描く」とはどういうことですか? 何のためにするのですか?
- 「課題を設定する」とはどういうことですか? 何のためにするのですか?
また、多くの受講者は「リーダー」の役割が分かっていません。「Why」を考えることなく、いきなり「How」を一生懸命考えています。課長になっても、部長になっても、小さなことを、今までと同じことを正確にやり遂げようとしている。そのため、日本企業の労働生産性、付加価値生産性は一向に高まりません。
インバスケット方針立案演習を実施する場合は、「言葉の意味」「期待成果」「注意事項」などについて時間をかけて説明します。前述したとおり、説明が甘いと、単なる問題解決と施策列記となってしまうからです。インバスケット方針立案演習では、受講者に「まだ来ぬ将来」について大胆に描いてもらう必要があります。
結果の評価か?プロセスの評価か?
グループ討議編でも触れましたが、今一度「結果の評価」と「プロセスの評価」の違いを説明します。
結果の評価
報告書を読んで、妥当解か否か、良いか悪いか、一定の基準に基づいて内容を評価します。「テストの採点」に近いものです。基準に沿って客観的な評価をします。ある意味では、評価基準さえあれば誰でも公平な評価を行うことができます。しかし、「結果」には再現性がありません。昇格アセスメントで、たとえ合格しなくても、来年も再来年も受けられるのであれば、国家試験のように受かるまで受講できるのであれば、この方法でも良いかと思います。しかし、結果のアセスメントでは、なぜ合格しなかったのか、どこを直せば合格できるようになるのか、といった「要因」をフィードバックすることができません。
プロセスの評価
多くのアセスメントでは、プロセスの評価をしています。「どう考えたか?」「どこまで考えたか?」「何を基準に決めたのか」こういったことを明らかにし、思考のスタイルや要素となる詳細能力の発揮具合を見極めながら最終評価をします。プロセスには、一定の再現性があるため、より精度の高い評価を可能とするとともに、合格的なかった要因や改善ポイントをフィードバックすることができます。プロセスの評価をするためには、受講者の思考のプロセスを追う必要があるため、アセッサーには相当な訓練が必要になります。また、文章を丁寧に読み、意味や意図を解明していきながらの作業となるため、時間がかかります。
インバスケット方針立案演習の評価「外観を見る」
前述の通り、言葉の意味を説明し、演習目的と期待成果を丁寧に説明したうえで、インバスケット方針立案演習を実施します。インバスケット方針立案演習の成果物は、書式自由でレポート用紙で2?3枚の報告書となります。アセッサーは、人によってまったく内容が異なるレポートを読んで「個人特性」「思考スタイル」「思考スキル」を評価します。
評価の流れは、「外観の特徴把握⇒記述内容の精査」という順になります。いきなり内容を読んで「良い」「悪い」の評価をするアセッサーがいますが、それでは「特性」が掴めません。「森」全体を見る前に「枝・葉」をみてしまっているからです。まずは、ざっと全体に目を通し、以下のチェックを行っていきます。
- 記述量は多いか、少ないか ⇒ 思考の回転、仕事の生産性、意欲などがわかります
- 文章は丁寧か、誤字脱字はないか ⇒ 仕事の進め方、精神状態がわかります
- 明快なストリーにまとまっているか ⇒ 論理構築力、構成力がわかります
- 文章中心か、単語の羅列が中心か ⇒ 感覚脳か、論理脳かがわかります
- 読みやすい文章か、読みづらい文章か ⇒ 論理構築力、果断性などがわかります
- 主観が強いか、客観が強いか ⇒ 思いが強いか、冷静な人かがわかります
インバスケット方針立案演習の評価「内容面を見る」
インバスケット案件処理演習は、状況が限られているので、受講者の解答はだいたい想定の範囲に入ります。唯一絶対解はありませんが、ある程度「妥当解」の方向があります。いわゆる、「良い判断」「効果的な解決策」「成果担保の指示」というものがあります。
一方、インバスケット方針立案演習では、組織の未来を考えるため、思考の範囲はぐっと広がります。「着眼」「思考の手順」「思考のスタイル」が一人ひとり異なっており、正解もないため、内容面の評価は難しくなります。「バカげたアイデアが世の中を変えていくことになった」という例も少なくありません。
さらにいえば、案件処理であれば、十数件の案件を解決するため、思考の傾向性がみられ、「たまたまできた」というものを評価してしまうことはないと思います。ところが、方針立案演習では、「一発勝負」となるため、受講者の潜在しうる能力がきちんと発揮されたものかの判定は難しくなります。また、結論に至った思考のプロセスも、習慣化されたものか否かの判断も難しくなります。そういった評価の難しい方針立案演習を評価するには、アセッサーは以下のような姿勢や技量が必要となります。
- どういった構想や、どういった課題設定も、自分の価値観で「良い悪い」「好き嫌い」を判定しない。価値判断を挟まず、書かれた事実をそのまま受け取る。「結果」でなく、プロセスで発揮された個別能力を評価する。
- ケーススタディであるため、受講者は何でも書ける。本気でそう思ったのか、自分から率先してやろうと思っているのか、アセスメントだから書いたのか、この峻別を行う技量が求められる。言っていることが一貫しているか、机上の空論に終わらせず実践展開の方法も考えているか、といった点から判断します。
- 思考のプロセスを追いかけ、どんな手順で考えたか、何に関心が向けられていたか、思考展開にどんな特長があったか、こういったことを見極めるとともに、要素となる個別能力の発揮具合を判定します。
- 上記の???で得られたこと(仮説)を検証する姿勢が求められます。ほかの演習でもそういった傾向が見られたか、正反対であったか、最終的には、様々な演習から得られた情報から総合的に判断していくことになります。
本気度の見極め方
アセッサーは、たまたまできたのか、きちんと実力をもっているのか、本気でやろうとしているのか、とりあえず書いたのか、などについての峻別を行う必要があります。ポイントは、様々な制約を認識したうえで自由な発想ができているか、様々なリスクを覚悟したうえで意思決定をしているか、といった点になります。
次回に向けて
今回は、企画力や構想力を測定する際に使用される「インバスケット方針立案演習」について、演習概要の解説と評価の流れについて解説しました。次回は、インバスケット方針立案演習の成果物からどのように「思考プロセス」を追っていくのかについて解説を行い、インバスケット方針立案演習のまとめを行いたいと思います。