現在は、「顧客にとって価値あるものを、いかに生み出し続けられるか」ということが、企業の生き残りの鍵となっています。 いくらいいものを作っても、「顧客にとって価値がなければ売れない」という時代です。 したがって、金融資本などの「物的資本」よりも、知識とか知恵といった「知識資本」がますます重要になっています。 その意味で、最も大切なものは「人材」であり、「価値を生み出すことができる人材や組織をいかに作り上げていくか」という課題に応えるべく、企業はいろいろな施策に取り組んでいます。

しかし、人の育成に真剣に取り組んでいる企業はどれくらいあるのでしょうか。人を大切にしている企業がどれくらいあるのでしょうか。 人を大切するということは、給料を上げることでしょうか、福利厚生を手厚くすることでしょうか。人を育てるということは、研修を増やすことでしょうか。業務に関する知識をたくさん付与することでしょうか。 企業のやっていることは何か足りない。いわゆる「目に見えること」しかやっていない。

現在、わが国企業の社員のやる気や会社への忠誠心は、決して高いとはいえません。先進国の中でも最低のほうです。 会社側は、「社員の満足度を高めたい」「人材を育成したい」と思っているのに、社員は「このままでいいのだろうか」「目先の仕事の処理ばかりで、長期的な人生の絵が描けない」などという不満や不安を抱えているのが実態ではないでしょうか。 いわゆる会社と社員との間で「思い」のギャップがあるということです。

確かに、先進的な企業では、「キャリアデザイン研修」「従業員の満足度調査」「360度評価」などを実施し、社員には「自分の職業人生を長期的に描いてみよ」と、上司には「部下の満足度を高めよ」「部下の職業人生を応援せよ」というメッセージを送っています。 でも、これもうまくいかないでしょう。「目に見えること」しかやっていないからです。

今、大切なものは「目に見えないもの」です。社員一人ひとりの「個性」「期待」「こだわり」「夢」「不満」「不安」など、心の中のものです。 たぶん、上司は「業績というノルマ達成」で精一杯であり、部下の職業人生を応援する余裕はないでしょう。できることとしたら、「いかに部下の努力を業績達成に向けさせるか」であり、最大の関心は「部下のモチベーション」と「部下の業績進捗度合い」となるでしょう。 これは上司が悪いのではありません。会社の仕組みがそうなっているからなのです。

一方、社員が一番求めているのは、「自分の職業人生を充実させていくための相談相手」「何かあったときに自分を守ってくれる人」なのではないでしょうか。 会社側は、社員に自律を求め、成果に見合った報酬を出そうとしています。しかし、社員は自律しきれていません。 だから「自律するための相談相手」や「セイフティネット(保護してくれる人)」が欲しいのです。

今、「会社」と「社員」の間での思いの乖離が生じており、これがますます拡大してきていると思います。こんな状態では、トップが「将来ビジョン」を声高に叫んでも、社員は自分のものとして受け入れられない。 社員はどうしていいかわからない。仕事をしているときは不安や不満を忘れられる。とりあえず、目先の仕事に埋没しているのです。

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